大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2004号 判決 1969年2月27日

控訴人 練馬農業協同組合

理由

(一、二1~3を省略)

4 してみると、右債務引受契約は保科と被控訴会社との利害が相反するものであることが明らかであるところ、商法第二六五条は取締役個人と株式会社との利害相反する場合に、取締役個人の利益を図り、会社に不利益な行為が濫りに行なわれることを防止しようとする法意であるから、同条にいわゆる取引中には取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反の行為のみならず、取締役個人の債務につき、その取締役が会社を代表して、債権者に対し債務引受をなすが如き、取締役個人に利益であつて会社に不利益を及ぼす行為も取締役の自己のためにする取引として、これに包含されるものと解すべきであり、取締役が右規定に違反して、取締役会の承認を受けることなく右の如き行為をしたときは、本来、その行為は無効と解すべきである(最高裁判所昭和四三年一二月二五日大法廷判決参照)。従つて、保科が被控訴会社を代表して控訴人とした前記債務引受契約は、取締役と会社との間に直接成立した取引ではないが、なお取締役の自己のためにする取引として商法第二六五条の取引に該当し、保科が取締役会の承認を受けることなくしたときは、本来無効というべきところ、《証拠》によれば、保科は前記債務引受契約について被控訴会社取締役会の承認を受けなかつたことが認められ、当審証人保科栄一の証言(第一、二回)及び甲第二号証中右認定に反する部分は前掲各証拠にてらして信用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

5 しかし、取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反する取引にあつては、会社は、当該取締役に対して、取締役会の承認を受けなかつたことを理由として、その行為の無効を主張しうることは当然であるが、会社以外の第三者との間で取締役が会社を代表して自己のためにした取引については、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要があるから、会社は、その取引について取締役会の承認を受けなかつたことの外、相手方である第三者が悪意であることを主張し、立証して始めて、その無効をその相手方である第三者に主張しうるものと解するのが相当である(前記判決参照)。従つて、被控訴会社は保科が取締役会の承認を受けなかつたことの外、控訴人が悪意であることを主張立証しなければ、控訴人に対し前記債務引受契約の無効を主張しえないといわねばならないところ、前記債務引受契約に関し、被控訴会社取締役会の承認の決議がなかつたことについて控訴人が悪意であつたことについては主張立証がないから、被控訴会社は控訴人に対し前記債務引受契約の無効を主張しえないといわねばならない。

右のとおりであるから、被控訴会社の抗弁は理由がない。

三 しからば被控訴会社は控訴人に対し本件手形金八〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であることを記録上明らかな昭和四一年一一月三〇日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があることが明らかであるから、控訴人の本訴請求は理由あるものとして認容するのを相当とする。従つてこれと趣旨を異にし、被控訴人の本訴請求を認容した本件手形判決を取消し右請求を棄却した原判決は不当であるから民事訴訟法第三八六条によりこれを取消して右手形判決を認可する(以下省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例